韓国舶用産業が抱える海洋進出、海外市場、技術競争という３つのテーマを業界トップはどう見るか。座談会で、韓国独立系舶用メーカーの現状と今後、そして日本との関係などを話していただいた。
＜参加者＞
▼東和エンテック・金江熙会長（写真左から２人目）
▼三和交易・金承毅社長（写真一番右）
▼ＳＴＡＣＯ・李東瀅会長（写真一番左）
▼パナシア・李樹泰社長（写真左から３人目）
■日本と異なる技術開発の形
―― 造船・舶用産業では技術競争が激しくなっている。現状の韓国メーカーを欧米や日本製品に比べて、技術面などの長所や短所をどう見るか。
金江熙「技術力は優れているわけでも劣っているわけでもなく、一定水準にあると思う。アフターサービスや価格、納期も対等だろう。弱いのは、ドキュメンテーション。仕上げに関しても改善の余地がある」
李東瀅「製品自体は他国に比べて劣る点はなく、性能や、船主・造船所への要求にすぐ対応できる点は負けていない。だがエンジニアリングや設計のコンセプトはまだ勉強する余地がある」
李樹泰「韓国製品の長所はいろいろあると思うが、短所はネームバリューだろう。『メード・イン・コリア』の知名度は欧州に比べてまだ劣る。船主が日本や欧州に多いので、自国製品に使いやすさや親しみやすさがあり、その差が韓国製品に不利になっている可能性もある」
―― 日本の舶用産業では、省エネ・環境の開発が重要性を増している。
李東瀅「その点は韓国も日本と同じだ。エネルギー消費量の削減など、いろいろな開発が進んでいる。いま注目しているのは製品の軽量化だ。軽量化によって、省エネ化が図れる」
李樹泰「燃料費の高騰で、省エネは誰にとっても大きな関心事だ。当社も製品の電力消費量を約50％落とせるような研究を行っている」
―― 日本では省エネや環境対応に向けた業界共同プロジェクトがいくつもある。
金江熙「韓国は雰囲気が若干違う。韓国では、政府が基本的な政策をつくり、開発プロジェクトを公募して、採用されたら開発補助金を出すような形だ。これをベースにして、関心のある企業が自分たちで開発するのが基本的な形だ。また、日本のように同業種のメーカーが一緒に研究開発する例は、韓国では少ない」
李東瀅「確かに韓国は異業種間の連携が中心だ。また、造船所の研究開発の位置づけが大きい。造船側で大きな流れができた段階で、メーカーも一緒になって開発をしている感じと思う」
■海洋進出に期待
―― 韓国造船大手がオフショアにシフトしている点は、韓国の舶用産業に深刻な影響ではないか。
李東瀅「韓国の資機材メーカーは新造船の仕事がピークだった時代に比べて売上高が平均２～３割は落ちているのではないか。ただ今後は、造船ビッグ３が手掛けている海洋市場に関連産業も進出できる可能性があるという展望が開けている」
―― オフショアは石油メジャーがベンダーリストを握っており、参入障壁が高い。
李東瀅「確かにそうだ。だが当面有望なのは居住区関連だろうか。船室のキャビンシステムなどは、仕事が拡大する可能性があると思う」
李樹泰「ただ、多くの中小メーカーは市場参入に苦労しているのが実態だ。参入できている企業は、ごく一部にすぎない。当社もオフショア用に特殊なフィルターを開発して、参入までもう少しというところだが、やはり障壁が高く、どう乗り越えるか悩んでいる」。
―― 韓国の造船大手が韓国製品の参入を後押しするような動きはあるのか。
李東瀅「そういう面で造船所は協力してくれている。ただ、それでもオーナーの要求が多く、なかなか近づくのに苦労している」
■輸出市場は拡大へ
―― 韓国造船所の商船縮小で、舶用は輸出を増やす必要がある。まず中国市場をどう見るか。決済トラブルなど困難もあると思うが。
李東瀅「一般論としては、中国市場でさまざまな問題が発生していることは噂で聞いている。中国進出企業には悩んでいるところも多いのではないか」。
金江熙「ただ、製品の特徴や各社の事情もよるだろう。当社は現地化も視野に入れて前向きに考えている」
李樹泰「会社や製品の特徴による。当社は現地に販売法人があるが、中国でそれほどひどい事態は経験していない。船主指定で当社製品を中国での建造船に搭載することもあるという前提で、市場拡大を期待している」
―― 中国は、国が舶用国産化比率のターゲットを定めている点で、昔の韓国と同じに見える。
李東瀅「国家システムの違いはある。韓国や日本は民間資本だからこそ成長のスピードが速かった」
金承毅「韓国には独特の教育熱があり、当時も教育水準の成熟が成長の原動力になった面がある。中国の場合はその点がどうかはわからない」
―― 日本市場はどうか。昨年までの円高で日本造船所が海外調達を志向していた。
金承毅「だが、あれほどの円高でも、日本の舶用メーカーが価格を吸収するため頑張った。日本の造船所も、値段だけで昔からの関係を切ることは難しく、関係を維持する動きもあった」
李東瀅「円高時には価格をディスカウントした韓国メーカーもあるが、アベノミクスで１ドル＝100円台になり負担が大きくなった面もあると思う」
金承毅「昨年秋から今年上期の日本円の変動率は20～25％。こういう中で、日本造船所との契約数が少なくなっているのが現実だ」
■新時代、日韓協力がカギ
―― では日本市場の今後をどう見るか。
金承毅「日本造船所が韓国製品を使う理由は価格が安いという点だけだが、これを３つの観点から見直してほしいと思う。１点目は、日本メーカーを牽制する勢力として韓国製品が必要ということ。日本造船所が韓国から安くて良い製品を買えば、日本メーカーも価格や品質で頑張り、お互い切磋琢磨できる。２点目は造船市況が回復したときの資機材の安定調達先の１つとして韓国製品が必要ということ。３点目は、韓国メーカーは欧州や世界各地の船主との取引が多く、彼らの要求に応えて必死に技術開発を進めているので、そういう韓国メーカーとの技術交流が必ず役に立つということだ」
李東瀅「日韓中の３カ国で世界の造船業の85％を握っているが、中国がいま不利な状況だ。日本には海運を背景とした底力や造船の技術力がある。今後は中国のシェアが下がり、日本が上がるのではないか。そういう『新・造船三国時代』に、韓国と日本の間ではパートナーシップが有効だ。資機材と造船業が、自由に取引できる協力体制を考えるべき時代と思う」
李樹泰「新しい造船業はどういう流れになるか。エコシップの開発競争が進めば、新しい船ほど燃費が安く、競争力がある。新造船のサイクルが早まり、造船ブームが訪れる可能性もある。そういうときに、日本の持っているエコシップや省エネ技術と、韓国の資機材メーカーの技術力を合わせれば、非常に良い協力ができると思う」
金江熙「新時代に向けて思うところがある。三菱重工と韓国メーカーによる『三釜会』が25年前にできたとき、韓国メーカーは日本造船業と仲良くなれるという希望を持っていた。だが、良い時期もあったが、思うとおりにはいかなかった。日本の造船所や関係者がもっとオープンなマインドで韓国メーカーを育成してくれたら、両国には現在の姿よりもっと良い、別の現実があったのではないか。今後は関係者が広い心を持って日韓関係を活性化していければ、と強く願っている」
金承毅「韓国造船業は物心両面で日本に助けてもらったが、韓国が急速に発展する中で、次第に日本からライバル関係を強く認識された。今後は新しい次元での協力関係をつくりたい。団体間や民間でさまざまな関係を築けるような協議の機会や場ができることを願っている」
李東瀅「こういう話が頻繁にできるような環境を日韓でつくるのが大事だろう」
―― 韓国の舶用産業は、創業世代の皆さんの力でここまで来た。後継者不足などの問題はないか。
李東瀅「２代目は皆、親の苦労を見てきた。自分たちも跡を継ぎ、当然そうすべきという考えを持っているようだ」
金承毅「何よりも、造船業の未来は暗くないという展望を持っている。将来性があると見ている」
（連載おわり。対馬和弘が担当しました）
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▼金江熙・東和エンテック会長
1934年生まれ。74年に共同出資で機関修理会社を立ち上げて独立し、80年に東和精器を設立
▼金承毅・三和交易社長
1942年生まれ。40年にわたり舶用機器の貿易に従事し、02年から三和交易で韓国製品輸出を手掛ける
▼李東瀅・ＳＴＡＣＯ会長
1946年生まれ。92年に船舶内装などを手掛けるＳＴＡＣＯを創業。釜山造船海洋機資材工業協同組合の理事長も務める
▼李樹泰・パナシア社長
1955年生まれ。現代重工の技術者として務めた後、89年に液面計と脱窒装置の汎亜精密を創業
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